短距離ではなく、長距離

認知と時間

「良いプロダクトさえ作れば、自然と広まるはず。」 ソフトウェアエンジニアなら、一度はそう考えたことがあるかもしれません。

残念ながら、現実はそう単純ではありません。 どれだけ優れたプロダクトでも、存在を知られなければ使われることはありません。

一方で、「良いものは時間をかけて広がる」こともあります。 私が開発した OSS の shell-pop.el は、リリース直後ではなく、5年ほど経ってから利用者が増え始めました。 そして公開から10年以上経った今でも、ときどき Issue や PR が届きます。

品質だけで広まることは稀です。 しかし、本当に価値のあるものは、時間をかけて評価されることがあります。

ソロプレナーにとって最大の敵は品質ではなく認知です。 そして認知は、一夜にして手に入るものではありません。

認知の先

広告は認知を広げることはできます。 しかし、信頼まで買うことはできません。

AIによって開発速度が上がり、機能の差が縮まりつつある今、「誰が作っているか」「なぜ作っているか」は以前より重要になっています。ユーザーは、機能だけでなく開発者自身も見ています。

そのため私は、できるだけ開発の過程を公開するようにしています。

  • 今日実装したこと
  • 悩んだこと
  • 失敗したこと
  • ベータ版の募集
  • ユーザーからいただいたフィードバック

こうした発信を続けることで、リリース時には「初めて見るアプリ」ではなくなります。

少しずつ、「知っている人」が増えていく。

それは広告で得られる認知とは少し違います。 私は、それを信頼の積み重ねだと考えています。

積み上げるべきもの

発信を続けること自体が目的ではありません。 積み上げるべきなのは、

  • ユーザーの声
  • 改善の履歴
  • 「この人は作り続ける」という信頼
  • 「このプロダクトは良くなっている」という実績

です。

投稿数やフォロワー数は、その結果として増えるものにすぎません。

経済学には Goodhart’s Law という有名な言葉があります。

When a measure becomes a target, it ceases to be a good measure. 「指標が目標になると、その指標は良い指標ではなくなる。」

英語の資格、GitHub の草、SNS のフォロワー数、体重、歩数、売上──。 どれも大切な指標ですが、目的ではありません。

指標は現在地を知るためのものです。 目的地はもっと先にあります。

私の場合、それは毎日使いたくなるソフトウェアを作ることです。

おわりに

私は、「続ける」を支えるソフトウェアを作っています。 だからこそ、マーケティングも同じ考え方を大切にしています。

短期間で大きく広げることよりも、時間をかけて信頼を積み重ねること。 毎日少しずつ改善し、発信し、使ってくださる方と向き合うこと。 その積み重ねが、長く使われるプロダクトにつながると信じています。

短距離ではなく、長距離。 そのつもりでものづくりを続けていきます。

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